2022.01.06

会員インタビューvol.14 石川シングルマザーの会

ひとり親でも、ひとりじゃない。
家族のかたちに関わらず、
誰も孤立しない社会をめざして。

石川シングルマザーの会と、コーセーの協働企画によるスキンケア&メイクアップ体験会。シングルマザーにとって日々の忙しさで忘れがちな「自分を大切にすること」を思い出す時間になった。右奥が石川シングルマザーの会代表のおばたみなこさん。

12月の、雪が舞う日曜日。いつも頑張っているシングルマザーにクリスマスプレゼントが届きました。石川シングルマザーの会と、化粧品メーカー・コーセーの協働企画によるスキンケア&メイクアップ体験会です。
先進国で最も男女格差が大きい日本では、女性は構造的に弱い立場に置かれています 。コロナ禍では経済的に困窮するだけでなく、精神的に孤立するひとり親家庭も増えています。
だけど、シングルマザーの支援に、セルフケアって?
ちょっとでもそんな疑問を感じた方に、シングルマザーの会代表のおばたさんはこう力強く語りかけます。
「お母さんが自分を大切にすることで、子どもが幸せになれるんです」。
日本のシングルマザーが抱える課題の向こうには、さまざまな差別や不平等を生むジェンダーの壁があります。さあ、超えていこう!

―石川シングルマザーの会はどんな活動を行っているのですか。

基本的には公式サイトやSNSを通じて、シングルマザーやこれから離婚を考えるプレ・シングルマザーに役立つ情報を発信しています。そのほか、シングルマザーとしての悩みや経験を共有する交流会、子どもの体験格差を解消するアウトドアイベント、お母さんのスキルアップや収入アップのためのセミナー、食料や日用品の配布…といった活動をしています。個別に相談を受けて支援機関を紹介することもあります。

今日のイベントは、コーセーさんの社会貢献活動の一環で、一緒に何かしませんかと声をかけていただいて企画したものです。子どもたちは隣の部屋でボランティアさんに遊んでもらったので、お母さん方はひとときですが自分のための時間を楽しむことができたのではないでしょうか。

イベント時は友人や支援者がボランティアとして支えてくれる。この日、子どもたちと遊んでくれたのは、金沢市内でひとり親家庭向けのフリースクールを運営する高井浩平さん。寄付だけに頼るのではなく、持続可能な団体運営をめざす仲間でもある。

―おばたさんが会を立ち上げた経緯を教えてください。

私は2017年に離婚しました。シングルマザーになると決まったとき、なんでもいいから情報が欲しくて「金沢 シングルマザー」で検索してみたのですが、当時は適切な情報にたどりつけませんでした。それでも地道に探すと、行政の支援機関のほかに、子ども食堂があったり、ひとり親家庭や子育て家庭に特化した不動産会社があったりと、いろんな支援の手があったんです。私は見つけることができたけれど、誰に助けを求めたらいいのか分からないまま辛い思いをする人もいるんじゃないか…と考えて立ち上げたのが「金沢シングルマザーの会」のホームページです。本業がWEBデザイナーなのでそこは得意分野なんです。

最初は「会」といっても情報をとりまとめて発信するホームページという位置づけだったのですが、石川には他に当事者団体がなかったことから、広く県内のシングルマザーの相談にのり、ひとり親家庭を支援したいという企業や団体の受け皿になって、活動の幅を広げてきました。

石川シングルマザーの会代表のおばたみなこさん。神奈川県出身で、2014年に元夫の転勤に伴って金沢に移り住んだ。現在は加賀市に住み、フリーランスのWEBデザイナーとして働く。小学生の息子さんとの生活を楽しみつつ、シングルマザーの支援を行っている。
シングルマザーの先輩が運営する能登町の宿&Cafe 「PEACE」を訪れた2018年のキャンプイベント。子どもたちは男性陣と一緒に、普段はできないダイナミックな遊びを楽しんだ。(写真提供:石川シングルマザーの会)

―やはりシングルマザーを支援したい、という思いがおばたさんの中で強くなっていったのですか。

そういう気持ちはあまりなく、自然と支援する側になっていった感じです。当初、会の運営は完全にボランティアでしたから、「ありがとう」という言葉に充実感を感じると同時に、「私だって助けてほしいのに、何やっているんだろう」という葛藤が常にありました。そこでいったん全部リセットしようと、2020年の1年間、仕事も会の活動も休んで、息子と2人で日本一周の旅に出たんです。

 ―すごい行動力ですね!そして出した答えは―?

やめるという選択肢は出なかったので、そこからは腹を決めました。会の名称を石川シングルマザーの会に改め、シングルマザーサポート団体全国協議会に入会しました。組織運営や事業計画について学び、活動資金を得られるようになったことで、より充実した支援活動が行えるようになりました。会の運営については、2人のお母さんに副代表としてイベントを企画してもらっています。私がいなくなっても支援活動が持続できる組織にしたいんです。

日本一周から戻って、住まいは金沢市から加賀市に移しました。自宅を地域の子どもたちの居場所になるような図書館として開放するという夢があるんです。今のところは本の代わりに食料支援の段ボールが山積みになっています(笑)。

自宅でひとり親家庭に届ける物資を梱包するおばたさん。2021年12月は、ゲームメーカーのカプコンからの寄付をもとに、食料や日用品を詰めた「応援BOX」を100世帯へ届けた。(写真提供:石川シングルマザーの会)

―シングルマザーの支援活動とSDGsをつなげて考えるようになったきっかけは何だったのでしょうか。

会の設立以前から力になってくれた友人で、制服のリユースショップ・リクル代表の池下奈美さんに、「シングルマザーの課題はSDGsだ」と言われて、そうかなと思ったという単純な理由です。IMAGINE KANAZAWA 2030 パートナーズにも誘われるまま入会したのですが、交流会はとても勉強になりますし、実際のアクションにつながる企業との交流も生まれています。化粧品メーカーの花王さんと一緒にメイクアップセミナーの開催を計画していますし、パソコンのリユース専門店を運営するDREAM WORKSさんとは、シングルマザーの就業につながる取り組みを構想中です。

シングルマザー交流会。仲間がいることを知り、自分の話を聞いてもらうだけで、心が軽くなる人も多い。(写真提供:石川シングルマザーの会)

シングルマザーの支援のあり方には、SDGsの大きなテーマになっているジェンダー平等の視点も関係してきそうです。

ひとり親家庭の支援というと食料支援というイメージがあります。それは必要なことですが、それだけでは根本的な解決にはなりません。大切なのは、お母さんが自分の選択に誇りを持ち、自分らしく生きることです。そのためには何かスキルを身につけたり、自分に自信が持てる体験をしたり、心の持ちようを変えたり、といったきっかけが必要になります。

シングルマザーは「自分で選んだんだろう」という自己責任論を突きつけられたり、あるいは「かわいそう」という哀れみの眼差しを向けられたりといったことが多く、罪悪感や自己否定感を感じがちです。 心ない言葉を投げかけられることを恐れて、誰にも相談せず社会的に孤立する人もいます。「母親は子育てのために自分を犠牲にすべき」という日本特有のジェンダーロールに縛られている人もいます。実は、今回のようにお母さんを対象にしたイベントを企画しても、参加者は集まりにくいんです。子育て中のお母さん、しかもシングルマザーが自分のために時間を使うなんて贅沢だ、という思い込みがあります。そうじゃなくて、お母さんが自分を犠牲にせず、楽しく力強く生きることで、子どもも一緒に幸せになれるんです。そんなメッセージを、折にふれて発信していきたいと思っています。

pagetotop