みなさんは、金沢市が国連の「都市生態系再生モデル都市」に全国で唯一認定され、地域の庭園文化や生態系回復に向けた取り組みを積極的に発信していることをご存知でしょうか。
金沢に暮らす私たちにとって身近な“お庭”が今、さまざまな面で再評価されています。
今年で5回目を数える「KANAZAWA SDGsフェスタ」は、「自然・生物多様性・庭園」をテーマとし、まちなかの自然や緑を感じるさまざまなツアーを実施しました。本レポートでは、そのうち「庭園めぐりツアー」「まちなかの生き物ツアー」のもようをお届けします。
フェスタ当日は、金沢らしい秋の雨。散策にはちょっと不便もありますが、お庭の緑や石は雨の日こそ美しく映え、雨の日だからこそ姿を現す生き物もいます。
そんな期待に胸を膨らませて、ツアーに出発します!
3つの歴史的なお庭を訪問[庭園めぐりツアー]
庭園めぐりツアーでは、金沢市文化財保護課の職員さんの案内で、2025年4月から一般公開されている「千田家庭園」(長町)、2024年10月に国名勝に指定された「西氏庭園」(長町)、加賀藩前田家が築いた最後の庭園とされる「尾山神社庭園」(尾山町)の3か所をめぐります。
ツアー一行は金沢市役所第二本庁舎を出発、柿木畠のビルを縫うように流れる鞍月用水を横目で見ながら、長町方面に向かいます。

一方、長町武家屋敷跡の土塀沿いを流れるのは大野庄用水です。
金沢の歴史的な庭園の多くは、金沢城公園の周辺に点在する用水の流れを取り込んで作庭されているとのこと。今回訪れる千田家庭園と西氏庭園も、いずれも庭園の中心に池を設け、大野庄用水から取水しています。

こちらが千田家庭園。旧加賀藩士・千田登文が明治期に邸宅とともに造ったもので、兼六園になぞらえた意匠が随所に見られます。現所有者の千田典子さんと石野延廣さんが、「金沢の庭園文化を広く楽しんでもらいたい」と、2025年春から一般公開を始めました。


お庭では、シラサギ、カモ、ホタル、アユなどさまざまな生物が見られるそう。美しい水の流れと景観を保全するため、地域の人々の協力を得て、定期的に池の泥上げを行ってきた経緯があります。
次の目的地、西氏庭園も同じく長町の大野庄用水沿いにあります。
大正期に土地を取得し、住宅と庭園を整備して以来、代々継承されているそうです。個人住宅の庭園であり通常は公開していませんが、今回は特別に見学させていただきました。

明治築の千田家庭園には戸室石や犀川の河原石など地元の素材が多く使用されていることに対し、大正築の西氏庭園は、敦賀石、三州石、鞍馬石など全国の銘石が使われています。これには、大正初期に北陸本線(米原駅~直江津駅間)が開通したことが関係しています。地域の歴史を知ると、お庭の風景の解像度がぐっと上がります。
大野庄用水から取水した遣水は、庭内をめぐらせて再び用水に戻しています。用水路をのぞくと、庭園とつながる結ぶ取水口や排水口が確認できます。

最後の訪問先は、尾山神社庭園です。琵琶の形をした中島、琴の形をした橋など、楽器を模した意匠が斬新なお庭です。
尾山神社が建立される前、この場所には藩主前田家の別邸、金谷御殿がありました。現在の庭園は、江戸末期から神社創立までの間に作庭されたもので、もともとは兼六園から高低差を利用して「辰巳用水」の水を引いていました。道路の建築に伴い当時の水路が断絶したことで、今は地下水を池に流しています。

ツアーの締めくくり、案内していただいた市文化財保護課の職員さんの「歴史ある庭園は金沢の貴重な遺産ですが、SDGsの観点からは、たとえ小さくても、まちなかに庭や緑があることが大事です」という説明が印象的でした。
金沢SDGs行動計画(金沢ミライシナリオ)には、「古くて新しくて心地よいまち」を実現するための実践アイデアとして、「ウチの庭は地域のたから。大切につくり育てよう」が挙げられています。わが家のお庭の緑や軒先の鉢植えがまちの風景をつくり、通りすがりの人の目を楽しませることができたら、すてきなことですね。
尾山神社のお庭にはどんな生き物がいる?[まちなかの生き物ツアー]
まちなかの生き物ツアーの舞台は尾山神社庭園です。
庭園の造形美を鑑賞するのではなく、視線はお庭にひそむ小さな生き物にぐぐっとフォーカス。
水辺や木々が生い茂る築山など庭園内をあちこち歩いて生き物を探索し、スマホの無料アプリ「iNaturalist」を活用して識別し、観察記録を共有します。

ガイドを務めるのは、国連大学サステイナビリティ高等研究所いしかわ・かなざわオペレーティング・ユニット研究員のフアン・パストール・イヴァールスさん。
フアンさんたちの研究グループは金沢市の庭園の生態系調査を行っており、SDGsカフェにもゲストスピーカーとして登場していただいたことがあります(SDGsカフェ#13「市民全員が庭師になろう!」)。

ただ歩き回るだけでは生き物はなかなか見つかりませんが、「日が当たらない場所、腐りかけた木、石や落ち葉の下を探してみてください」という専門家のアドバイスに従って再度探索すると、キセルガイ、クモ、ダンゴムシ、カタツムリ、アリ、ゲジゲジ、ヒル、ゴキブリ(主に落ち葉を食べる、森のお掃除屋さんです)など、いろんな生き物を発見!

ファンさんによれば、「金沢の庭園は水の流れを取り入れていることから湿った環境であることが多く、都市部では希少とされる生物種の生息地、繁殖地として機能しています」とのこと。
生物多様性を守り育むという、庭園が有するもうひとつの力を実感するツアーとなりました。
今年のSDGsフェスタは、広く金沢のまちなかをフィールドに、城下町の都市構造に由来する用水網、その流れを取り入れた庭園、そこに生息する生き物について想像を広げるイベントになりました。
今回のツアーで訪れた庭園のほかにも、市内には歴史的な庭園が数多く残されています。金沢市のホームページ内「金沢の庭園文化」もぜひチェックしてみてください。

<<「KANAZAWA SDGsフェスタ」開催概要>>
主 催|IMAGINE KANAZAWA 2030推進会議
日 時|2025年10月5日(日)10:00~16:00
会 場|金沢市役所第二本庁舎
来場者|約2,500人
内 容|
(1)イベント
□「庭園めぐり」ツアー
□「まちなかの生き物」ツアー
□「里見町の町家と緑」ツアー
□「見える川・見えない川」ツアー
□ぐるりネイチャー散歩と絵本の会
□「関守石作り」ワークショップ
(2)マーケット・展示
庭や緑、水辺と生き物/量り売り/修理&創造的お直し/ゴミを減らす
(3)シネモンドの出張映画館
『FIVE SEASONS ガーデン・オブ・ピート・アウドルフ』
(4)IMAGINE KANAZAWA 2030パートナーズ企業・団体
□ウフフドーナチュ(型くずれドーナツなどの販売)
□Take a step(子どもの自己決定能力を育む包括的性教育を金沢に)
□大和リース株式会社金沢支店(SDGsへの取り組み例紹介)
□株式会社ユーアート(不要な印刷用紙で作るメモ帳)
□清水建設株式会社(SDGs・グリーンインフラに関する展示など)
□株式会社ダンロップタイヤ(タイヤでSDGs!)
(5)金沢市各課
□都市計画課 (コウハチロウ工房による木製品の展示)
□文化財保護課(金沢の庭園文化の動画公開)
□歴史都市推進課(金澤町家や用水のパネル展示)
出展者の声(一部抜粋)|
・いいイベントだと思いますので、これからも継続しますように。SDGsは何項目もありますので、幅も広げていけるといいのだろうなぁと思います。
・リサイクル瓶に葉っぱの包み紙を使い、イベントの趣旨に沿った提供ができました。他のお店さまの取り組みを見て参考になることも多かったです。
・みなさん容器持参やグラス持参に賛同くださり、さらに良い感触を得ることができて嬉しかったです。また参加されている皆様の工夫、毎回とても勉強になります。
・皆さん、タッパ持参でこのイベントが浸透しているなと感じました。
・お直しに興味を持ってくださる方が増えて、大切に繋いでいこうと思ってもらえる、そのきっかけをいただけてとても感謝してます! 私自身も、もっとできることはないだろうかと考えるきっかけや、いいインスピレーションをもらえたり、とても充実した一日になりました。
・今年は去年よりかなりマイボトル持参してくださった方が多くとても嬉しかったです!
・イベント中は、お客さまが朗らかにのんびりなさっているのが印象的、それに加え、ご自身の価値観や生活にフィットする商品を吟味なさっているのが伝わり、コンセプトがちゃんとお客さまと共にあること、お客さまがイベントを楽しみつつ“担い手”の側面もあること、勉強にも励みにもなりました。