地域の文化や環境、産業に貢献しながら旅を楽しむ「持続可能な観光=サステナブル・ツーリズム」への関心が世界的に高まっています。
金沢市では、市民生活と調和した持続可能な金沢観光の振興をめざし「金沢SDGsツーリズム」の取り組みをスタートさせ、金沢SDGsの達成に取り組む地域の観光関連事業者を「金沢SDGsツーリズム推進事業者」として認定しています。
今回IMAGINE KANAZAWA 2030では、推進事業者などと連携し、金沢SDGsをテーマにしたインバウンド向けモニターツアーを実施しました。ツアーには石川在住の外国人5名が参加し、市内各所をめぐってサステナブルな観光コンテンツを体験した後、意見交換を行いました。
本レポートでは、金沢SDGsツーリズムの輪を広げることを目的に、モニターツアーの内容を詳しくご紹介します。ぜひ、サステナブルな観光コンテンツの理解と開発のヒントとしてください!
【体験コンテンツ1】
近江町市場ツアー&料理教室
「金沢市民の台所」として300年にわたって金沢の食文化を支える近江町市場は近年、観光スポットとして人気を集めています。
「近江町市場ツアー&料理教室」は、金沢でインバウンド向け着地型アクティビティを提供する(株)こはくが企画実施するプログラムです。近江町市場を歩き、金沢ならではの食材や食文化について理解を深めた後、町家を改修した「IN KANAZAWA HOUSE」で料理教室を行います。
一連のガイドを務めるのは、金沢生まれ金沢育ちの料理研究家・谷口直子さん。近江町市場で働く人たちとのつながりも厚く、市場ツアーではさまざまなお店に立ち寄り、ただ歩くだけでは分からない市場の歴史や金沢の食の魅力を教えてくれました。
市場ツアーの後はIN KANAZAWA HOUSEへ移動し、市場で購入した新鮮な食材を使って金沢らしい和食づくりに挑戦します。
ツアー参加者は谷口さんの指導のもと、だしの取り方、包丁の扱い方、盛り付け、「もったいない」の精神など、和食ならではの技術や作法にふれ、完成した料理を囲んで和やかなランチタイムを過ごしました。
現在の近江町市場は、早朝は食材を仕入れる飲食関係者の姿が目立ちますが、10時頃からは観光客が増えはじめ、混雑を避けて地元民の足が遠のいている側面があります。市場が賑わいを持続可能なものにするため、「地元民と観光客がともに行き交う市場のあり方を模索している」と谷口さんは話してくれました。
《金沢SDGs的アピールポイント》
・食材と流通のしくみから和食の調理法、食べるまでの一連の体験ができる。
・取り壊される運命だった町屋を改修した体験施設そのものが魅力。
・調理の過程で出る野菜の皮や魚の骨などはコンポストに入れて堆肥化している。
【体験コンテンツ2】
千田家庭園鑑賞・呈茶
インバウンド客の多くは、日本の自然や文化を映す日本庭園に興味があります。
日本庭園は美しい景観で訪れる人を楽しませるだけでなく、生物多様性の保全や、工芸や茶の湯などの日本の伝統や文化を継承する役割も果たしています。こうしたSDGsにつながる庭園のあり方を実感できるのが、長町武家屋敷跡にある「千田家庭園」です。
千田家庭園は明治期に造られた池泉回遊式庭園で、庭の中心となる遣水(やりみず)は敷地脇を流れる大野庄用水から取水し、庭内をめぐらせて再び用水に戻しています。美しい水の流れと景観を保全するため、地域の人々の協力を得て、定期的に池の泥上げを行ってきた経緯があります。
本プログラムでは、オーナーの千田典子さんと石野延廣さんが、金沢の風土や武家文化を背景にした庭園の歴史や見どころを紹介してくれます。滝の音に耳を澄ましつつ起伏に富んだ景観を堪能したツアー参加者は、武家屋敷の面影を色濃く残す建築にも興味を持ち、さまざまな質問を投げかけていました。
千田家庭園はモニターツアーを行った時点では常時公開はしていませんでしたが、2025年の4月下旬にはギャラリーも開設して一般公開をスタートする予定です。これまで長町武家屋敷跡で一般公開しているのは野村家のみだったため、「千田家が加わることでオーバーツーリズムの緩和にもなれば」と石野さんは話します。
《金沢SDGs的アピールポイント》
・シラサギ、カモ、ホタル、アユなどさまざまな生物が棲み、エコシステムを体感できる。
・戸室石や犀川の河原石など地元の素材が多く作庭に使われている。
・地元住民の協力を得て、コミュニティの力で庭園を守っている。
【体験コンテンツ3】
金沢 浅の川園遊会館見学・畳コースターづくり、ひがし茶屋街散策
江戸時代から戦禍や大きな自然災害を免れてきた金沢には、近世から戦前までに建てられた歴史的建造物が各地に残り、観光客を集めています。浅野川大橋を渡った先にあるひがし茶屋街もそのひとつ。歴史あるまちなみの中で金沢芸妓が三味線や踊りなどの技芸を磨き、畳屋、傘屋、下駄屋などの職人が茶屋建築と芸妓のよそおいを支えてきました。
「金沢 浅の川園遊会館」は、水と緑がきらめく浅野川界隈に息づく伝統・芸能文化、まちづくりの軌跡を紹介する資料館です。
本プログラムでは、まず園遊会館館長の上原純一さん、主任の新開愛さんの解説を聞きながら館内を見学し、茶屋街や金沢芸妓について理解を深めます。中庭の先にある蔵にはひがし茶屋街のリアルなジオラマがあり、先人が木造建築を改修しながら守ってきた伝統的な街並みを俯瞰できます。
ツアーには、茶屋街に根づく職人文化にふれる場として、畳表の端材を使ったコースターづくりも含まれています。指導してくれるのは畳職人の吉本隆史さん。吉本さんは畳の制作技術についても教えてくれ、ツアー参加者は興味深げに聞き入っていました。
その後は地域のガイドさんが、サステナブルな観点も加えて茶屋街を案内してくれました。
伝統的な茶屋建築が立ち並ぶ通りを歩く中で、一行はあちらこちらの軒先に「とうもろこし」「ツバメの巣」を発見。前者は無病息災、商売繁盛を祈る金沢ならではの風習であり、後者は人と自然の共存のあかしです。
《金沢SDGs的アピールポイント》
・地域の伝統文化とまちなみを守り、継承している。
・「森林→林業→建築→まちづくり」という木の循環、木の文化にふれられる。
・職人と直接交流し、オーセンティックなものづくりへの理解が深まる。
【これからの金沢SDGsツーリズムを考える意見交換会】
市内各所でサステナブルな観光コンテンツを体験したツアー参加者は、金沢SDGsツーリズム推進事業者に認定されたホテルやゲストハウスに宿泊し、環境負荷の軽減やエネルギーの節制、地域活性化につながる取り組みを体感しました。
翌日はツアー参加者、関係者が集まり、体験した観光コンテンツのブラッシュアップに向けた意見交換を行うとともに、金沢SDGsツーリズムをさらに進めていくためのアイデアを共有しました。
個々のコンテンツについては、「オーセンティックな体験ができる」「地域の人との交流がある」「子どもや高齢者への配慮がある」といった点が重要という声が寄せられ、金沢SDGsツーリズムの全体的な取り組みとしては、「世界共通の目標としてSDGsが提唱される以前から、金沢には持続可能な生活文化が根づいており、受け継いできたものをアピールしていくことがSDGsツーリズムにつながる」という意見が出されました。
持続可能な観光の〝芽〟は、身近なところにあります。金沢に住む人、金沢で観光を生業にする人、そして金沢を訪れる人が、ともに慈しみ、育てていきたいものです。
[金沢SDGsモニターツアー概要]
日程:2024年10月24日(木)~25日(金)
参加者:5名
ツアー企画・運営:(株)日本旅行金沢支店
旅程:
[1日目]金沢駅 ⇒ 10:00~13:00 (株)こはく 近江町市場ツアー・料理教室(昼食)⇒ 13:30~15:00 千田家庭園鑑賞⇒15:30~17:00 金沢 浅の川園遊会館 見学・畳コースターづくり、ひがし茶屋街ツアー⇒ 17:30~19:30 能加万菜 万庭(夕食) ⇒ 19:45 ホテル宿泊(金沢町家ゲストハウス あかつき屋/三井ガーデンホテル金沢/Tマークシティホテル金沢)
[2日目]各ホテル ⇒ 9:00~9:40兼六亭(朝食) ⇒ 10:00~12:00 意見交換会