紙が循環するサイクルを、石川に。パートナーズの連携から生まれた「紙の地産地消プロジェクト」
暮らしのさまざまな場面でペーパーレス化が進んでいます。事務作業や手続きが簡単になる、書類の保管スペースが不要になるなどさまざまな面で便利になることに加え、紙の使用量が減れば森林の伐採量が抑えられ、紙の廃棄も減り、SDGsの達成に近づきます。でも、やはり「紙でしかできない」という場面は出てきます。
環境への負荷を軽減するための選択肢のひとつが再生紙です。その再生紙が、遠くのまちから運ばれてくる紙ではなく、地域の中で循環している紙ならもっといい―。そんな思いを共有するパートナーズ企業が連携して「紙の地産地消プロジェクト」が動き出し、オリジナル再生紙が誕生しています。キンコーズ・ジャパンの松本由美子さん、中島商店の松田修さんにお話しをうかがいました。
―「紙の地産地消プロジェクト」は、オンデマンド印刷で知られるキンコーズ・ジャパン(東京)さん、紙卸問屋の中島商店(金沢市)さん、そして製紙会社の中川製紙(白山市)さんが連携して取り組んでいます。紙の地産地消とは、どういうことなのでしょうか。
《松本さん》石川で回収された紙資源をオリジナルの再生紙にし、再び石川で使ってもらおうというものです。各社の役割分担としては、中川製紙さんが再生紙を生産し、中島商店さんが流通を担い、その用紙をキンコーズ・金沢尾山神社前店がオンデマンド印刷サービスに利用してお客さまに提供するというかたちです。
―金沢SDGsの5つの方向性のひとつ「2. 環境への負荷を少なくし資源循環型社会をつくる」にぴたっと当てはまる取り組みですね。プロジェクトの発端は何だったんでしょうか。
《松本さん》キンコーズは1992年の創業時から、必要なものを必要な数だけ提供するオンデマンド印刷のサービスを提供してきました。ただ、どうしても作業ミスはありますから、シュレッダーにかけて廃棄する紙が発生します。わたし自身は社内のDXやSXを担う部署にいるのですが、そのあたりにモヤモヤを感じながら仕事をしていました。そんなとき、関西を拠点に古紙のアップサイクルを行っている企業を訪問する機会があり、大きな刺激を受けました。と同時に、紙が循環する小さなサイクルが国内のあちこちにあれば、紙の輸送により発生するCO2を最小限に抑えられる上、地域の企業を巻き込んで面白いことができるかも、とひらめいたんです。そこでキンコーズの店舗がある地域について調べ、金沢尾山神社前店がある石川に注目したんです。石川なら紙の地産地消ができそうだと確信した翌日、企画書も持たずに中島商店の松田さんを訪ねました。
《松田さん》初めてお会いしたのはちょうど1年前くらいでしたね。当社はもともとキンコーズ・尾山神社前店さんに紙を卸していましたし、IMAGINE KANAZAWA 2030 パートナーズというつながりもあります。松本さんからご相談を受け、「やるしかないね」と盛り上がったことを覚えています。これは松本さんに指摘していただいたことで、この業界で長い私にとっても目からウロコだったのですが、石川は全国でも珍しく、製紙業者、卸売業者、流通業者、古紙回収業者と、紙に関わる専門業者がそろっている地域なんです。すなわち、紙資源の循環を地域で完結できる土壌があるんです。
―石川だからこそできる取り組みなんですね。再生紙に“石川産”というトレーサビリティがあると、食の地産地消と同じように、ユーザーが選択するきっかけになります。
《松田さん》実際に生産されたオリジナル用紙は、黒いポツポツとした繊維がところどころに見えて、ナチュラルな質感です。わたしたちはこの紙が生まれる前の、古紙の分別から見てきました。紙問屋である当社としては、従来の「仕入れて売る」というスタイルを超えて、新しい価値を生み出せたことに充実感を感じています。
《松本さん》紙資源をリサイクルすること自体は、珍しいことではないんですよね。わたしたちが目指すのは、単純なリサイクルではなく、松田さんがおっしゃるように紙に付加価値をつけることなんです。この紙を名刺や封筒、あるいはノベルティとして使用していただくことで、企業ではSDGs、CSRの推進につながります。学校では環境教育の教材になりますし、小規模なお店がこの紙を使ったオンデマンド印刷でショップカードやチラシ、パネル、ポスターなどを一式そろえる、といったことも可能です。
《松田さん》紙は素材ですから、デザインしたり、印刷したり、加工したりといったことで、さまざまな可能性が広がります。環境教育に関していえば、地域の古紙のリサイクル工場を見学してもらうことも可能です。視点を変えると、家庭やオフィスで発生する古紙は、紙の地産地消を継続していくための貴重な資源です。一般の方には、ごみとして捨ててしまう前に、ぜひリサイクルすることを考えてほしいとも思っています。
―プロジェクトのこれからを教えてください。
《松本さん》今回のプロジェクトでは、キンコーズだけでは実現できないことでも、中島商店さん、中川製紙さんというパートナー企業と力を合わせれば実現できるということが分かりました。同じように、企業、行政、学校、NPOなど、いろんな方に、いろんなかたちで紙の循環の輪に参加してもらって、一緒にできることを考えていければと思っています。
2024年に入り、わたしたちのプロジェクトに2つのトピックスが生まれました。ひとつは、オリジナル再生紙のネーミングが決まったことです。全国から寄せられた364件のアイデアの中から厳正な選考を経て、青森県の麻倉遥さんの『おきあがみ』に決定しました。もうひとつは、このプロジェクトを継続していくという志と、令和6年能登半島地震の被災地を継続的に支援していきたいとの思いを重ねて、『おきあがみ』の売上金の一部を、日本赤十字社を通じ被災地支援の義援金として寄付することを決めました。『おきあがみ』がその名の通り、被災地が大きな悲しみを乗り越え、起き上がっていくための力に少しでもなればと思っています。
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