2023.02.16

会員インタビューvol.17 NPO法人 安心生活ネットワークいち

人と住宅をむすび、人と地域をむすぶ。
一人ひとりに寄り添って
安定した生活基盤を提供。

「KANAZAWAハートおむすび会」は、IMAGINE KANAZAWA 2030推進会議が共催し、金沢市社会福祉協議会、金沢ボランティア大学校同窓会 、ほくりくみらい基金準備委員会が協力して実施しました。子どもも大人も、慣れている人もそうでない人も、一緒におむすびを握りました。

122日(日)、金沢市の松ヶ枝福祉館で、みんなでおむすびを握って、食べて、おしゃべりしよう…というイベントが開かれました。その名も「KANAZAWAハートおむすび会」。困りごとを抱えて相談に行くのではなく、エプロンを持っておにぎりを作りにいくなら、足を運びやすく、話しやすいのでは。そんな発想から企画されたものです。主催は生活困窮者の住居確保支援に取り組むNPO法人「安心生活ネットワークいち」。202212月に発足したばかりのNPOですが、理事長を務める谷村麻奈美さんは、不動産会社の経営者として、経済事情や年齢などさまざまな理由で賃貸物件への入居を断られてしまう「住宅弱者」の支援に奔走してきた経緯があります。
ごはんの炊きあがりを待ちながら、お話をうかがいました。

NPO法人「安心生活ネットワークいち」は202212月に設立したばかりです。不動産会社の経営者として、住宅弱者に寄り添ってきた谷村さんの活動がベースになっているそうですね。

私は20代の頃から不動産業界で働いていました。その頃は、シングルマザーや高齢者、障害者が賃貸物件の紹介を求めて来店すると「審査が通るかわからない」「仲介手数料が低くて会社の利益が少ない」という理由で、上司から断るようにと指示されたんです。がっかりして肩を落として帰っていく方の後ろ姿を見ながら、これでいいのかという気持ちになりました。自分自身ふたりの子どもを育てるシングルマザーということもあり、同じような立場で住む場所に困っている人を助けたいという思いが強くなり、2017年に不動産会社エリンクを立ち上げました。
創業当初から予想以上の反響があり、幅広い年代の方から依頼がありました。家賃滞納などのトラブルがあるのでは…というような賃貸物件オーナーさんの不安を払拭し、信頼関係を築いて物件を提供してもらったり、市社会福祉協議会の自立生活サポートセンターと連携したりして、子育て世帯・母子家庭・高齢者・生活保護・障害者など「住宅弱者」と呼ばれる方に寄り添ってきました。

NPO法人「安心生活ネットワークいち」理事長の谷村麻奈美さん。NPO、市民、企業、基金、行政などが組織を越えて協力するネットワークをつくり、住宅困窮者に寄り添っています。明るい笑顔にパワーを感じます。

―貸す人、借りる人両方の安心のために奔走されてきたんですね。
住居がないと雇用保険の申請もできず、次の仕事も探せませんが、新型コロナウイルスの影響で失業して住まいを追われる人は増加しています。

エリンクでもコロナ禍で雇止めにあった3060代の男性からの相談が増えています。シングルマザーなど女性向けの相談窓口は複数ありますが、男性の場合はどこに相談していいか分からず、頼れる親族もおらず、ひとりで悩みや苦しみを抱えていることが少なくないんです。せっかく住宅が確保できても、引きこもって孤立してしまうことも珍しくありません。困っている人を救いたいと不動産業を起業したのに、住宅とつなぐだけでは救えない。
それじゃだめだと、入居した後も「ちゃんとごはん食べとる?」「元気にしとる?」と連絡したり、行政への相談に付き添ったり、食料や買い物の支援をしたりと、自分にできる支援をしてきました。入居者さんからは「ちょっと相談があるんやけど」と電話もしょっちゅうかかってきます。モテるんですよ、私(笑)。

NPO法人のメンバー。「いち」という団体名に、「一からスタート」「一番そばにいるよ」との思いを込めて。入居前のサポートから入居後の見守り業務までを担う「住宅支援事業」、食品配布や買い物代行などを行う「日常サポート」、地域住民が集う場やイベントの企画・運営を通じた「地域活性化」を活動の3本柱としています。

―「自分にできる支援」ということですが、不動産業の枠を超えて、よろず相談所のようです。

ですね。そうした活動をする中で次の課題が見えてきて。人と家をむすんだ後は、家の外に出てもらって、地域とのつながりをむすぶことが欠かせないと気づいたんです。自腹を切ってひとりでやっていていては、サポート内容の面でもお金の面でも継続的な支援活動はできないので、NPO法人化を決めました。住宅を切り口にした生活支援には、いろんな分野の専門家や団体との関わりが必要です。志を同じくして一緒に取り組んできたオーナー、司法書士、空き家の片付け専門会社の経営者などが、それぞれの役割や得意分野を持ち寄ってメンバーになりました。

楽しくなければイベントじゃない!ということで、金沢市社会福祉協議会の職員さんが大道芸を披露してくれました。

―住宅確保給付金など公的な支援制度もありますが、それだけでは解決しない問題が多いんですね。今日はNPOとして初めてイベントということですが、老若男女いろんな方が集まりましたね。

孤立しがちな人、それから支援したい人が集まってつながる場として企画しました。おにぎりを作ってテーブルを囲むというスタイルなら、自然にコミュニケーションが生まれます。
今日は少人数ですが、「来てね」と直接声をかけた入居者さんだったり、ネットやチラシを見たという方が足を運んでくれました。「私たちはこんな団体で、今後こんなことをやっていきます」という自己紹介ができればと思っていたので、和気あいあいとした良い集まりになったと思います。
金沢ボランティア大学校の同窓会の方のほか、「何か手伝えることはないか」と、飛び入りでボランティアをしてくれた方もいらっしゃって嬉しく思っています。誰かのために何かしたいと考えている方が多いんだなと実感しました。

自由にのびのび育った大根は、北陸で唯一の少年院である湖南学院の生徒たちが育てたもの。当日の朝に届けてもらった野菜は、めった汁にして美味しくいただきました。
湖南学院は市社会福祉協議会と連携し、生徒の教育活動の一環として「地域の誰かのためになるものづくり」に取り組んでいます。

NPO法人の今後の活動について教えてください。

住宅確保の支援を入り口に、一人ひとりに安定した生活基盤を提供するということを目指しています。そのために、関係機関と連携して生活支援、食の支援、就労訓練などのサポートを切れ目なく行います。おむすび会のイベントも、一度限りではありません。子ども食堂の大人版として、来てほしい人に来てもらえるように、継続していろんな場所で行っていきます。食材の寄付も大歓迎です。
「おむすびづくり」だけでなく、「居場所づくり」をしたいとも思っています。地域社会に馴染めない方や孤立しがちな方(受益者)、それからボランティアの方(支援者)も、ここに来れば誰かがいてほっと安心できる。そんな場所を用意したいんです。

市民による地域課題解決の取り組みを後押しする「ほくりくみらい基金準備委員会」代表理事の永井三岐子さん。支援する側・される側の線引きをするのではなく、みんなで場をつくっていくことの大切さを改めて実感したと話してくれました。
「異業種交流会で谷村さんの話しを聞いて雷に打たれた」という松栄貴子さんは、訪問看護ステーションの管理者で、今日は困りごとをヒアリングする立場で参加。谷村さん同様、困っている人ほど支援の網の目からこぼれてしまう現状を何とかしたいと考えていたそう。

―最後に、「誰かがやってくれるだろう」ではなく「自分がやる」という、谷村さんのモチベーションの源泉を教えてください。

これは自分がやるべきことだ、という使命感は創業時から持ち続けているんですけれど…。でも根っこにあるのは、人と違うことをするのが好きだという自分の性格です(笑)。普通なら出会えない人と出会い、できない体験をする。やりたいことをやらせてもらっている毎日が楽しいんです。

おむすびだって多様です!
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