作っているのは子どもが笑顔になるドーナツとママが笑顔になる職場です。
丸くて穴が開いた可愛らしいかたち。素朴でどこか懐かしい甘さ。フレーバーやデコレーションで広がる味わい―。ドーナツは夢いっぱいのおやつです。
金沢生まれのドーナツといえば必ず名前が挙がるのが「ウフフドーナチュ」です。コンセプトは「ママが子どものために愛情こめて手作りするドーナツ」。能登の塩、赤崎いちごに大浜大豆、金沢のゆずなど北陸の食材をふんだんに取り入れて作ったドーナツを全国の百貨店やスーパーに卸すほか、自社の工房兼ショップで販売しています。ウェディングプランナーや雑誌の編集長としてバリバリ働いていた志賀さんがドーナツづくりを始めたのは2015年のこと。原点になったのは「女性が結婚しても、ママになっても働ける場所をつくりたい」という思いでした。志賀さんはドーナツにどんな夢をこめたのでしょうか。
―2015年にドーナツづくりで起業されたということですが、その経緯を教えてください。
私は珠洲市出身で、ウェディングプランナーとして8年働いた後、出版業界に転職しました。ブライダル業界も出版業界も女性の活躍が目立ちますが、当時は休日出勤や長時間労働が当たり前。どんなに優秀でも、女性は結婚・出産後は職場復帰を諦めざるを得ないという現状を目の当たりにしてきました。その後、自分も結婚することになり、「女性がママになっても満足のいく仕事ができる場所を作りたい」という気持ちが膨らんでいったことが起業のきっかけです。前職でもうひとつ感じていた課題は、特定の人にしかできない業務が増えると、その人が職場にいないと全体の仕事が停滞してしまうということです。これでは、たとえば子どもが急に熱を出したというときも安心して休めません。誰でも同じように取り組め、一定の品質が出せる仕事はなんだろうと考えて出てきたのが、ドーナツづくりです。ドーナツは子どもが大好きなおやつの代表ですし、形や製造工程が決まっているので、誰かが休んでも他の人がサポートできます。しかも冷凍して全国発送する卸売りメインなら時間を限って仕事ができ、土日も休めます。そんな計画で、金沢市内で物件を借りてお店をスタート…、というところで私が妊娠・出産。赤ちゃんを連れて営業したりと、今では笑い話になっていますが、怒涛の創業期でした。
―現在は全国の百貨店や大手スーパーで販売される人気ブランドになっています。「選ばれる理由」はどんなところにあると思いますか。
ドーナツは一般的なお菓子で、たくさんのメーカーやお店がありどこでも買えます。その中で事業を軌道に乗せるのは簡単ではなく、設立から3年は赤字だったのですが、2018年に転機が訪れました。東京の展示会に出展したことを機に高級スーパーの紀ノ国屋で扱ってもらうことになったんです。バイヤーの目に留まったのは「子どもに食べさせたい、ママたちの手作りドーナツ」という付加価値があったから。そこからはいろんなところから声がかかるようになりました。
―「ママであること」が、事業を成長させていく上での強みになったんですね。
ウフフドーナチュは食品ロス削減にも積極的に取り組んでいますが、それもママの発想です。台所に立つママには、心を込めてつくったものを余ったから捨てるという発想はありません!ドーナツは受注生産が基本ですが、どうしても余りが出ます。創業当初は、冷凍庫に余ったドーナツをストックして売り先を探したり、ご近所に配ったりしていました。それも限界があり冷凍庫がパンパンになったときに、児童養護施設に寄付することを思いつきました。うちのような小さなお店、しかも当時は赤字のお店でもできる社会貢献です。それからは定期的にドーナツを寄付しています。
もちろん、売り切るしくみ、捨てずに流通に乗せていくしくみをつくる努力もしました。納品する商品の種類をこちらに任せてもらう「アソート受注」もそのひとつですし、自社店舗では型くずれしたドーナツをお得なセットにして販売しています。ドーナツを揚げた後の廃油も捨てず、豚の飼料としてリサイクルしています。そんなわけで、捨てているのは卵のカラくらい。ママさんのもったいない精神に由来するアイデアを、一つひとつかたちにしていった結果です。
―規格外の野菜をドーナツづくりに使うことで、食品ロス削減の輪を広げています。
大きすぎたり、変形していたり、割れていたり、という見た目の理由で市場に出回らない地元の野菜を有効活用しています。子どもに野菜を食べさせることができ、農家さんの収入アップにもなり、いいことばかりです。
―起業の目的だった「ママが働きやすい環境をつくる」という点については、手応えはいかがですか。
約25名いるスタッフ全員が既婚者で、大半が子育て真っ最中です。パティシエ、栄養士、百貨店のフロアマネージャー、幼稚園の先生などバックグラウンドはさまざまですし、「子どもが幼稚園に行っている時間を活用したい」「楽しく働きたい」「キャリアを活かして働きたい」など、求める働き方も人それぞれです。スタッフ教育にも力を入れていて、成長を希望するスタッフにはどんどん仕事を任せるようにしています。新しいポジションを作り、スタッフの成長の受け皿をつくることが、私の役割だ思っています。
あるスタッフは、自分が住んでいる軽井沢で仕事がしたいと、事務・営業職としてリモート勤務を始めました。その後「軽井沢にお店を出したい」という彼女の声で新規出店プロジェクトが発足し、2021年8月に「ウフフドーナチュ旧軽井沢」が誕生しました。これは極端な例かもしれませんが、自分で新しい仕事やポジションをつくる、ということも可能です。
―女性の社会進出は、SDGsの「5:ジェンダー平等を実現しよう」「8:働きがいも経済成長も」の達成に、食品ロス削減は「12:つくる責任 つかう責任」の達成に主に関係します。ウフフドーナチュさんはまさに事業活動を通じて社会の課題解決に取り組んでいらっしゃいます。最後に、IMAGINE KANAZAWA 2030パートナーズでやりたいことを教えてください。
女性の活躍であれば、子育て中の女性は時間の制約があるので雇わない、雇いにくい、という見方が普通でした。食品ロスであれば、たとえば恵方巻のような季節商品が典型的ですが、たくさん作って売場に並べて、売れ残ったら廃棄する、ということが当たり前に行われていました。でも当たり前は、いつまでも当たり前ではありません。
IMAGINE KANAZAWA 2030 パートナーズに加わったのは、ロールモデルというと大げさですが、こんな工夫をすれば食品を捨てないで済むよね、こうしたらママが柔軟に働けるよね、ということを多くの人に知ってほしかったからです。特に女性の働き方については、子育てか仕事の二択ではなく、子育ても仕事もせいいっぱい楽しめるような、そんな職場が増えるような発信をしていけたらと思っています。
●ウフフドーナチュHP