2021.12.18

会員インタビューvol.13 ツエーゲン金沢(株式会社石川ツエーゲン)

「プロサッカーチーム」のワクを超え、
「地域づくりのパートナー」になる。
ツエーゲン金沢が想像する、金沢のミライ。

2021シーズンのホームタウン活動レポートには、ツエーゲン金沢のSDGsオリジナルロゴが配されている

石川県をホームタウンとして活動するJ2リーグ所属のサッカークラブ・ツエーゲン金沢は「ZWEIGEN SDGs」のロゴを掲げ、SDGsへの取り組みを始めています。
ツエーゲン金沢のフロントスタッフとして働く灰田さんには、忘れられない光景があります。高校時代に修学旅行で訪れた北海道で、Jクラブの北海道コンサドーレ札幌の練習を見学したときのこと。目をキラキラさせた子どもから、カメラを携えた若い女性、熱くうんちくを語るおじいちゃんまで、世代を超えて地域の多様な人々が集い、語らい、共感している光景です。
スポーツ、そしてJクラブには、人を結び付け、地域を元気にするちからがあります。ツエーゲン金沢が思い描くサスティナブルな未来について語ってもらいました。

Jリーグは設立時から地域とともに歩む地域密着型のクラブ運営を理念として掲げています。まずはJクラブと「ホームタウン」と呼ばれる本拠地との関わり方について教えてください。

Jクラブは地域に根ざしたスポーツクラブとして、スポーツ文化の振興活動に取り組んでいます。「する」「見る」「支える」「語る」のすべての裾野を広げてこそ、豊かなスポーツ文化が育まれます。そうした位置づけで各クラブが行っているのが「ホームタウン活動」です。ツエーゲンでも、県内の幼稚園や保育園を訪問してサッカー教室を行ったり、ブラインドサッカーチーム「ツエーゲン金沢BFC」をサポートしたりとさまざまな活動を行っています。
ところで、2019年の時点でJクラブの数は55でしたが、各クラブが1年間に行ったホームタウン活動を足し算すると、どれくらいになると思いますか?

ツエーゲンファミリーとして、2018年5月に誕生した、 北陸初のブラインドサッカーチーム「ツエーゲン金沢BFC(ブラインドフットボールクラブ)」。 2019年度、日本ブラインドサッカー協会主催の「中日本リーグ」に参戦し、念願の公式戦デビューを果たした。

 ―想像がつかないのですが、55チーム×10回で、総数550回くらいでしょうか…?

実は…約25千回にも及ぶんです。でもあまり認知されていないんです。そうした現状を踏まえ、Jリーグ25周年を迎えた2018年、ホームタウン活動と合わせてこれからは「シャレン!」(社会連携活動の略)をやっていこうという方針が打ち出されました。従来のホームタウン活動はクラブが地域に出ていって単独で活動する、というスタイルでしたが、クラブと地域の企業、NPO、学校などと連携して一緒になって地域の課題を解決していこう、という新しい流れが生まれたんです。

ツエーゲン金沢事業企画部次長兼ホームタウン推進室室長の灰田さちさん。金沢出身の灰田さんは、東京の企業で3年間働いた後、大学院でスポーツマーケティングを勉強。その後、Jリーグで仕事をするという高校時代からの夢をかなえてサンフレッチェ広島で5年間働き、2018年からツエーゲン金沢に。

― ツエーゲンではどういうところから着手されたのですか。

報道を通じて情報を収集したり、まちづくり関連のミーティングに参加したりと、まずは地域の課題を知ることから始めました。そうした中でつながった企業・大学・団体と一緒に実行委員会を立ち上げて実施したのが、視覚障害者の方と一緒にサッカー観戦を楽しもうという「Future Challenge Project」です。
具体的には、20211017日のヴァンフォーレ甲府戦で視覚障害者の方を対象にした観戦会を行いました。ピッチ上の戦況が耳で聞いて分かるよう、アイ・オー・データ機器が提供する音声配信サービス「PlatCast」を使って、MRO北陸放送の谷川恵一アナウンサー、当クラブの辻尾真二アンバサダーによる試合の実況・解説を配信しました。希望される方には金城大学と金沢星稜大学の学生が介添えサポートを行ったのですが、支える側、支えてもらう側の壁をつくることなく同じ立場で観戦を楽しむという考え方で臨んだので、あちこちで打ち解けた姿が見られました。

―ツエーゲンが単体で地域貢献活動をするのではなく、クラブと地域がパートナーシップで何か新しいことを生み出していくという、SDGsの考え方により近しい活動が生まれているんですね。

はい。新型コロナウイルスが地域の暮らしに影響を及ぼす中で、選手から声があがって取り組みが始まった事例もあります。緊急事態宣言下で、支援が必要な人に食料を提供するフードバンクで在庫が底を突いているという報道がありました。それを知った当クラブの廣井友信選手が、「地域の子どもたちにお腹いっぱいご飯を食べてほしい」と発起人となり、有志選手がお金を出しあっていしかわフードバンク・ネットに定期的に食料品を寄贈する取り組みを始めたんです。2021年はほぼ全選手・スタッフが活動に参加し、さらにパートナー企業の賛同も得て、支援の輪が大きく広がっています。
試合会場でも定期的にフードドライブを開催して来場者に協力を呼びかけています。クラブの公式SNSを通じて選手の活動を知っていたサポーターの方に「自分もやっと協力できる、嬉しい」と、こちらが嬉しくなる言葉を言っていただいたこともあります。

見えなくても楽しめる!視覚障害者を対象にした観戦会の様子(写真提供:ツエーゲン金沢)
試合会場で定期的に行っているフードドライブ(写真提供:ツエーゲン金沢)

―選手が率先して、そして継続して取り組むことで、フードバンクや子ども食堂といった子どもの貧困対策の認知度が高まります。選手にとっても、ピッチの外で誰かの役に立てるのはすごく大きいことではないでしょうか。

だと思います。フードバンクへの食品寄贈活動から一歩進んで、サッカー以外のことで選手が地域と交流し、⼦どもたちが抱える課題を学んでいこうという「Kids Smile Project」も始まっています。2021年7月に行った第1回の勉強会では、金沢市の児童養護施設の方にお話を聞きました。11月には、最近注目されているヤングケアラー(家族の介護や世話を担う18歳未満の子ども)をテーマに第2回の勉強会を行った他、選手が県内の複数の児童養護施設を訪れて子どもたちと交流し、サッカーボールを寄贈しました。
子どもたちの笑顔を増やすために学び、活動する選手の姿を発信することで、サポーターの皆さん、地域の皆さんにも理解や共感が広がることを期待しています。

選手が児童養護施設を訪問

―Jクラブとしてサッカーをやって試合に勝つことが目的なのではなく、SDGsの視点で「なぜ地域にクラブが存在するのか」という部分に踏み込んでいきそうですね。

ツエーゲンは、金沢・石川というホームタウンに支えられて成り立っています。ただし、一方的に支えてもらうのではなく、より良い地域づくりのパートナーとしての役割を果たしていきたいと考えています。地域の持続可能性とクラブの持続可能性はイコールです。その意味では、ツエーゲンが金沢SDGsに参画するのは当たり前のことなんです。
IMAGINE KANAZAWA 2030パートナーズのみなさんには、プロサッカーチームではなく、まちづくりのパートナーとしてツエーゲンを見て、こんなことが一緒にできないか、と気軽に声をかけてほしいと思います。
当クラブは「挑戦を、この街の伝統に。」という理念を掲げています。金沢・石川には「伝統」という言葉を冠したものがたくさんありますが、私たちがいろんな活動に挑戦し続けることで、「挑戦」を地域の新しい伝統のひとつにしていければ。そんな2030年の金沢の未来を想像しています。

2021年10月、11月のホームゲーム3試合では「ZWEIGEN SDGs TAKE ACTION 2021」と銘打った取り組みを実施。「まちのり」での来場促進、女子観戦会、廃材を使用したワークショップ、ウォーキングイベントなど、SDGsの観点で地域課題を考え、行動する機会をファンやサポーターに提供した。(写真提供:ツエーゲン金沢)
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