2021.10.01

会員インタビューvol.11 金澤くるみ

紙袋に、優しさも入れて
SDGsな「つつむ」を提案

 

金沢駅に尾山神社、兼六園の雪つり、水引や加賀手毬など、金沢の観光名所や伝統工芸を柔らかなタッチのイラストで表現した『金沢紙袋』。サイズは大(横23センチ×高さ23センチ×マチ12センチ)と小(横13センチ×高さ14センチ×マチ7センチ)の2種類。個人への販売も行っている。

レジ袋有料化により、買い物のスタイルは大きく変化しました。マイバッグユーザーが増える一方、店舗側では「どんな袋を提供すべきか」ということが継続して考えるべき課題となっています。
旅先でのお買い物はどうでしょうか。
金沢でラッピング専門店を営む中﨑千恵子さんが提案するのは、SDGsに取り組みたい観光事業者と、SDGs視点で旅をする旅行者の双方のニーズに応える『金沢紙袋』です。コンセプトは「みんなでシェアする紙袋」。金沢の名所・名物をちりばめた可愛らしいデザインで観光客の目を楽しませつつ、本来は捨てられる紙の端材をパーツに使ったり、障害者就労支援施設に作業を委託したりと、見えないところにも優しいメッセージを込めています。

―金澤くるみさんはラッピングと水引の専門店ということですが、金沢では珍しいのではないでしょうか。まずは中﨑さんの起業の経緯から教えてください。

学生時代にアルバイト先でお中元やお歳暮の包装を担当したのがラッピングとの初めての出会いです。大学卒業後は金沢の雑貨店に勤務しましたが、そこでも商品を美しくつつむことが仕事のひとつでした。雑貨店を退職し事務職に就いたあたりで「起業したい」という子どもの頃からの夢を思い出し、自分に何ができるか考えたときに出てきたのがラッピングでした。そこから大阪のラッピング専門店で2年修行し、2014年に金沢で起業しました。金沢では唯一のラッピング専門店です。
最近はネットで贈り物を購入する方が増えています。ネットショップの場合、包装サービスがないこともあって「買ったはいいけど、どうしよう」と困る方も。そうした方が持ち込んだ商品に、贈り先やシチュエーションに合わせたラッピングを施して喜んでいただいています。華やかな洋風、和紙と水引を使った和風と、どんな依頼でも受けていたら、納車するクルマに大きなリボンをかけたり、巨大生花オブジェを飾ったりと、何屋さんか分からない案件も手がけるようになりました(笑)。

ラッピングと水引のお店「金澤くるみ」代表の中﨑千恵子さん。ラッピングコーディネーター、水引作家として幅広く活躍している。

―つつむこと=ラッピング、むすぶこと=水引の2本柱で、幅広く活動されているんですね。その延長線上で『金沢紙袋』のアイデアが生まれたのでしょうか。

観光客の方向けの水引体験教室も行っているのですが、作品の持ち帰り用に当店のオリジナルの紙袋があるといいなと思ったのが発端です。ただ専門業者に発注すると、機械化されていて大ロットになってしまいます。それなら金沢らしいデザインの用紙を作って、自分で折って紙袋に加工しようと考えました。「手折りにするなら、障害者の就労支援施設に作業を依頼できるし、製袋パーツに端材を使って“もったいない”を減らすこともできる…」「金澤くるみのロゴを入れなければうちだけでなく、いろんなお店で使ってもらえるのでは…」と構想を膨らませていたところで金沢SDGsツーリズム推進事業に採択され、背中を押してもらいました。SDGsを意識して開発したというより、やりたいことが結果的にSDGsに当てはまっていった感じですね。

お土産品店やイベントなどで広く使ってもらえるよう、紙袋本体に特定の店名やロゴは印刷していない。各店でシールを貼ったり、ハンコを押したりしてカスタマイズできる。

―小さな紙袋ですが、金沢の魅力発信、脱プラ、脱使い捨て、資源の有効活用、就労支援と、盛りだくさんですね。金澤くるみさんだけで完結せず、多方面を巻き込んでいるところがすてきです。

人との出会いやつながりには恵まれていると思います。
就労支援施設については、長年、水引の技術を教えたり、商品化のお手伝いしたりといった交流があり、施設の利用者さんはどんな作業が得意で、どうサポートすれば能力を発揮できるかといったことを理解できていたことがベースにあります。
紙の端材の活用に関しては、ラッピングで「箱」を使うことがあり、箱屋さんで板紙を裁断した際に出る端材が捨てられているのを見て「何かに活用したい」と思っていたんです。今回は、紙製品を扱う中島商店さんから端材を提供してもらい、紙袋の底板と開口部に使っています。

『金沢紙袋』の特徴や導入のメリットを説明したチラシも制作。店舗へのPRに力を入れている。

―自然体で常にアンテナを張っていらっしゃるんですね。紙袋は20214月に販売を開始されたということですが、反響はいかがですか。

水引体験教室に参加された方には「かわいい!」と好評です。また、もともと「みんなでシェアする」がコンセプトなので、地元のお土産屋さんなどへの営業活動に力を入れており、現在約10社で買い物袋として採用してもらっています。金沢らしいイベントやSDGsにつながる体験プログラムとの相性も良く、たとえば九谷焼の片岡光山堂さんは、割れたり欠けたりした九谷焼を使ってフォトフレームを作るワークショップをされているのですが、完成した作品を持ち帰るのにこの紙袋を使ってもらっています。
ふだんの生活の中でも、紙袋を使う場面は意外と多いと思うんです。例えば、借りていた本を返したり、お菓子をおすそ分けしたりする際に、お気に入りの紙袋を使うことってありませんか? 特に可愛い柄の紙袋は貴重です(笑)。しかも紙袋は中身を変えて何度も使うことができ、いろんな人の手に渡っていきます。
『金沢紙袋』は、環境にやさしく、社会に貢献ができ、SDGsの観点でお店の情報発信ができます。金沢の観光事業者が今すぐにできる取り組みとして、今後も輪を広げていきたいです。

金澤表参道(横安江町商店街)のレンタル町家「Nigiwai Space新保屋」で水引アクセサリー体験教室を行っている中﨑さん。明治期に建てられた元履物卸問屋の建物での工芸体験は、観光客に人気。

―中﨑さんは起業家としての顔もお持ちです。SDGsを掲げたプロジェクトを推進して気づいたことを教えてください。

今の時代、どんなことをするにしろSDGsへの配慮は欠かせません。でも、どんなに環境にいいモノ、社会に貢献できるモノを作ったとしても、使ってもらえる場がないと意味がありません。
私自身は、「自分がやっていて楽しいこと」「何かちょっと世の中の役に立つこと」「需要があること」という3つの要素が大切にしています。これらを踏まえて、『金沢紙袋』に続く次のアイデアも、すでにかたちにしているんですよ。

アイデアパーソンで人脈の広い中﨑さんが『金沢紙袋』の次に手がけるのは、クラフトイベントなどで商品の展示販売に活用できる『マルシェカート』。本来は産業廃棄物として処分される「紙管」を骨組みに使用し、知人の発明家と一緒に開発した。一般的な屋台什器に比べて安価、かつ分解できるので保管や移動に便利。今後、販売とレンタルを考えている。
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