―苔がきれいな中庭があって、お座敷は風炉が切ってあって、檜が香る五右衛門風風呂があって…、すてきな宿ですね。2018年の秋にオープンされたということですが、その経緯を教えてください。
私は犀川のほとりの町家で生まれ育ったんです。地域のお母さん方がうちに集まって、お花やお茶の先生に来てもらってお稽古をして、そこに子どもたちも交じって見よう見まねでお花を活ける―、なんてことが当たり前の時代でした。そうした豊かな体験が忘れられず、金沢の文化や暮らしぶりを伝える「町家の宿」を仕事にしようと決意しました。
この建物は築90年以上になりますが、前の家主さんはとてもきれいに住まわれていて、間取りはほぼそのまま、水まわりと傷んでいる部分を中心に最低限の改修を行いました。水屋箪笥をキッチン収納に活用したり、独特のゆらぎがある古いガラスを組み替えた建具を入れたり、この家に受け継がれてきたものを大切に再利用しています。中庭は、竹もギボウシも、以前から植栽されていたものを活かしています。
今ちょうど夏用の建具に変えたところなのですが、市内の別の町家の持ち主の方から「よかったら使ってほしい」と譲っていただいた簀戸を入れています。「住み継ぐ」ということはこういうことなんだなと、実感しています。