2021.02.15

会員インタビューvol.07 株式会社のっぽくん

「小さな暮らし」を守るお買いもの
むすんで、ひらいて、フェアトレードの輪

「のっぽくん」は、陽だまりのようなお店です。1階は地元でとれたオーガニック野菜やお米、無添加の食品などを販売。2階はフェアトレードの洋服や雑貨を扱うほか、ヴィーガンカフェもあります。人々が、あたたかい気持ちを持ち寄り、よりあたたかい気持ちになって店を後にする、そんな場所です。
のっぽくんの取締役を務める小浦むつみさんは、世界を旅した後、市民グループを立ち上げてフェアトレードを広げる活動を続けています。開発途上国の生産者と公平・公正な取り引きすることを通じて、その持続可能な暮らしや営みを支援するフェアトレード。小浦さんはていねいにことばを選びながら、生産者の貧困解決と自立への道を切り拓くフェアトレードの可能性を語ってくれました。

―小浦さんがフェアトレードに関わる活動を始めるきっかけは何だったんですか。

わたしは奥能登の港町で生まれ育ったのですが、女の子には教育費をかけられないという風潮もあった時代だったので、自分には選択肢がないと思い込んでいました。そういうものを振り払いたいという気持ちもあって、20代半ばで世界をめぐる旅に出かけたんです。
インドに滞在していたとき、親しくなった女の子が「来月から売春宿で働く」と当たり前のように話してくれました。衝撃を受けました。今まで手をつないで笑い合っていたのに、そんなことあり得ない。もちろん彼女が進んで得る仕事ではありません。一緒に何か別の手段がないかと考えました。でも、ないのです。身を売るか、死ぬかの二択なのです。日本の地方で暮らす私は選択肢がないと嘆いていましたが、それとは比べものにならないほど、絶望的に自分の人生を選べないのです。
ちょうどその頃、フェアトレードに出合った私は、「これだ!」と思いました。「貧しいから、そこで働くしかない」ではなく、誰もがちゃんとした仕事に就き、尊厳を持って生きるチャンスがあるべき。そう考え、以来ずっとフェアトレードに取り組んでいます。

色とりどりのフェアトレードの洋服が並ぶ。オーガニックコットン100%のインナーはへたりにくく長く愛用できるそう。SDGsを意識する「エシカルメンズ」のための洋服も充実

―実体験をもとに、貧困を少しでも減らすことを仕事にされたのですね。フェアトレードが根付くことで、世の中でどんな変化が起こっているのでしょうか。

私たちがおつきあいをしている生産者団体は、厳しい環境下でもすばらしい成果を出しています。より弱い人の立場を考え、より公平な運営・管理を行っていて、その高いビジネススキルは日本人も見習うところが多いです。
たとえばインドのムンバイで洋服を作っているグループは、特に生活に困っていて、なおかつミシンを使ったことのない女性に無料の技術訓練を行い、手に職を付けるまでをサポートしています。スラムの子どものために学童教室を運営したりといった活動もしています。
買い物にはいろんな選択肢があり、安く買えるほうがいいとは思いますが、知らず知らず、生産者を虐げるような環境で作られた洋服を身に着けていたとしたら……、嫌ですよね。フェアトレードなら、買いものを通じて弱い立場の作り手を支えることができる。作り手は、必要とされるものを作り、生まれ育った地域で安定して生活していける。こんないいことはありません!

「フェアトレードは、弱者に対する“ほどこし”ではなく、きちんとした技術で作ったものに対して正当な対価を払うこと」と話す小浦むつみさん

―のっぽくんの店内にはすてきな洋服や雑貨が並んでいますが、その背景を知ることが大切ですね。

そうですね。今もこのコロナ禍の大変な時期にフェアトレードの洋服なんて売れないだろう、と思っていたのですが、「こんな時だからこそ、みんなが幸せになれる買い物をしたい」と、手に取ってくれる方が多いんです。
一方で理屈じゃなくて、「なんだかいい感じ」と直観的に選んでくれるお客様もいらっしゃいます。結果的に、それがフェアトレードのものだったというような。手仕事で作られたものの良さは、自然と伝わるんですね。

カフェではベジランチやヴィーガンケーキ 、オーガニックコーヒーが楽しめる

―小浦さんとSDGsとの出合いはどのようなかたちだったのですか。

常連さんが「のっぽくんのやってることは全部SDGsに当てはまるんじゃないか」と教えてくれたんです。
SDGsには17の目標が設定されていますが、私がすごく納得したのは、1:貧困をなくそう」が最初に掲げられていることです。貧困は児童労働や森林伐採、人口増加などあらゆる課題に関わっています。また貧しい人の多くは女性です。女性がフェアトレードを通して貧困から抜け出すことができれば、子どもや家族、コミュニティにも良い影響があります。
最近はSDGsに取り組んでいる学生さんから「フェアトレードはSDGsの何番のゴールにつながると思いますか?」などと質問を受けることも増えていますが、「全部です」と答えています。

お店の中も外も、木のぬくもりがあふれる

―お店では地元の農家さんが栽培した野菜やお米も扱っています。フェアトレードと地産地消の関係についてはどう思われますか。

フェアトレードは海外の生産者を支援するものというイメージがありますが、そうではなくて、小さな地域の暮らしを支援するものと考えると、地産地消ともシームレスにつながります。効率はよくないけれど、環境に配慮しながらていねいに作られたものが、大きな資本によって淘汰されないようにする、という点は共通しているので、そういう「軸」を持って買い物をされる方が多いですね。

1階には昔ながらの製法で作られた調味料や、無添加の加工品が並ぶ

―これからSDGsをどのように広げていきたいですか。

のっぽくんは2021年に創業25周年を迎えるのですが、その記念企画としてSDGsに関連する映画を上映するイベントに関わる予定です。「どうしたらエシカルなお買い物がもっと広がるだろうか」とお客様と話す中で生まれた企画で、オンラインで予告編を一気に見るイベントを行って、たくさんの方の意見を踏まえて上映作品を選びます。
IMAGINE KANAZAWA2030のプロジェクトには、SDGsの取り組みを「お題目」に終わらせないために、何がどれくらい達成できたか評価できるしくみを提起してもらえればいいなと期待しています。

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