2021.02.05

会員インタビューvol.06 加賀建設株式会社

地域に残したいもの 地域とともにつくるもの
SDGsで広がる、港町の未来

加賀建設が運営する複合施設「コッコレかないわ」のラウンジスペースにて。ここでSDGsについて子どもたちが楽しく学べるイベントが開催されることもある

クルーズターミナルの誕生で注目を集めている金沢港界隈。昔ながらの港町のたたずまいが残る金石にも新しい風が吹いています。
1943年、金石の地に造船会社として創業した加賀建設は、ほどなく木造船をつくる技術を活かして建築事業に参入。その後、金沢港開港を機に港湾土木に進出するなど、地域の発展、港の発展とともに歩んできました。現在は本社近くに複合施設やカフェをオープンするなど、地区活性化へのアクションを起こしています。
金石という土地柄を大切にしながら、しなやかに事業の幅を広げている同社の軸は、SDGsです。
建設業界は男の世界? いえいえ、あたりまえに女性が活躍しています。鶴山社長ほか、土木部の森髙さんと東野さん、総務部の木戸さんにお話をうかがいました。

―加賀建設さんは、「お味噌汁食堂 そらみそ」「Ten riverside(テン リバーサイド)」の2店舗を運営し、金石に新しい人の流れを呼び込んでいます。 オープンの経緯を教えてください。

《鶴山社長》金石は歴史ある港町ですが、近年は人口減少が顕著です。私が小学生だった頃は1学年3クラスだったのですが、今は1クラスとなりました。子どもが少なくなると、地域でつないできた文化も失われてしまいます。金石に根差して歩んできた当社として何かできることはないかと模索し、2016年、地域の情報発信拠点として複合施設「コッコレかないわ」を建てました。
1階に店を構えるのが、“漁師町のお母さんがつくるひと手間ある温かい味”をテーマに、お味噌汁とおにぎりを提供する「お味噌汁食堂 そらみそ」です。
そこから徒歩数分の距離にある「Ten riverside」は古い倉庫を改装して2020年にオープンしたカフェです。レインフォレスト・アライアンス認証を受けた茶園で生産されている碾茶(てんちゃ)の茎を特殊な方法で焙煎した「金棒茶(かなぼうちゃ)」を楽しんでいただけます。

金沢青年会議所の活動によりSDGsが自分事になったという鶴山雄一社長。何より地域のことを考えてきた祖父、父がつないできた加賀建設を、SDGsの文脈でサステナブルに成長させている

―建設会社が食堂やカフェを経営するということに対して、社内外の反応はいかがでしたか。

《鶴山社長》2017年に全社的にSDGs達成にむけたアクションを推進すると社内で宣言しましたが、そういったことも含めて社員の反応は「急に何を言っているのだろうか?」「何を始めるつもり?」というものでした(笑)。
また、さまざまな店舗をオープンする過程において、まわりの人々からは「こんなところに人が来るわけない」などと言われました。ただ、県外をはじめ外からの視点で金石を眺めると、川があり、海があり、ゆっくりと時間が流れていて、「こんなにいいところはない」というのです。
SDGsというと、ルールを侵さないというような“守り”のイメージが強いかもしれませんが、一方で“攻め”のビジネスチャンスを積極的に捉えていく経営指針にもなります。やってみよう、という思いが強かったですね。

窓の外に川が流れる「Ten riverside」は、自家焙煎した金棒茶とともに金石に流れるおだやかな時間を味わえる
「そらみそ」の広々とした店内。小さな子どもをつれたママさんの姿も多い。隣接して物販スペースもある

―建設業としてのSDGs実践についてもお聞きしたいです。サステナブル経営の一環として「女性活躍推進」を掲げていらっしゃいますが?

《鶴山社長》当社が女性の働く環境を意識するようになったのはSDGs以前のことで、2003 年に初の女性現場監督として森髙さんを新卒採用したことがきっかけです。

《森髙さん》私はもともと現場監督をめざして就活をしていたのですが、時代は就職氷河期。しかも「女性は結婚を機に退社するもの」というのが半ば常識だったので、企業にアプローチしても電話口で断られることがほとんどでした。唯一、面接をしてくれたの加賀建設だったんです。
入社後、当社で初めて育休を取得し、復職後には女性用の更衣室やトイレができ、分煙が徹底されました。女性がいないことが当たり前だった現場の雰囲気も少しずつ変化していきました。もっとも私自身は、女性だから特別扱いしてほしいわけではなく、ひとりの技術者として、当たり前にいい仕事ができればという思いがずっとあります。
SDGsを推進する上で、私にとってもっとも身近なゴールは5:ジェンダー平等を実現しよう」です。後輩の女性技術者が、結婚、出産などを経て安心して働き続けられる環境を整えたいですね。

森髙靖子さんは、石川県建設業協会の女性部会「百万石小町 結」の部会長を務めるなど、地域の女性技術者のリーダーとして一目置かれる存在

―設備面の改善はもちろん、女性が働きやすい仕組みづくりも大切ですよね。

《木戸さん》そういった点では、これは総務部がやらなければいけない仕事だ、という使命感を感じています。
SDGs推進を掲げる以前の総務の仕事といえばルーティン業務が主だったのですが、今は「社員一人ひとりに合わせた柔軟な働き方を提案する」という目標が明確になり、仕事に対する意識が変わりました。
育児中の社員の声を聞いて、子どもの学校行事のための特別休暇制度を立ち上げましたし、声を聞くより先に、こちらから積極的に「時短勤務に切り替えることもできますよ」「いったんパートタイムに変更して、その後正社員に復帰しては?」など、その人に合った柔軟な働き方の選択肢も提案もするようになりました。女性が活躍できる企業の証として、厚生省の「えるぼし」の三ツ星認定、「くるみん」の認定も受けましたし、実際に女性が働きやすい職場環境になったと思います。

入社7年目の木戸由莉奈さん。「総務という仕事のノウハウを、企業の枠を超えて共有できれば」とパートナーシップに期待を寄せる

 ―加賀建設さんは全社員のうち3分の1が女性と、建設会社の平均を大きく上回っていますよね。
建設工事の現場はどう変化していますか。

《東野さん》請け負った工事を計画通り進めることは当然のことですが、SDGsの考え方でその工事の持つ意味を捉え直し、目標を数値化する「プラスワンアクションfor SDGs」という取り組みを実践しています。たとえば環境への負荷をより小さくするという点では、排水基準、材料ロス削減などに目標となる数値を設けています。ひとつの現場にはいろんな協力業者さんが関わりますから、見える化して共有すると効果的です。

《鶴山社長》一方で、自分たちの技術で足りない場合は新しい技術を積極的に導入し、やり方を根本的に変えています。

《東野さん》具体的な例を挙げると、港湾工事では海底に石を置いて土台にするのですが、石も限りある資源です。そこで新たにナローマルチビーム測深機を導入して海底の地形を詳細に解析し、無駄なく施工するようにしました。建設業界は技術革新が目覚ましく、最新情報をキャッチアップすることが欠かせません。

大病を乗り越えて活躍する東野友樹さんは、会社や地域に支えられた経験から、SDGsの「誰ひとり取り残さない」の意義を痛感。新技術を取り入れて現場をサポートすることに力を注ぐ

SDGsの複数のゴールに関わる取り組みが、11:住み続けられるまちづくりを」に集約されているのですね。

《鶴山社長》単純に工事を請け負う建設会社ではなくて、誰かのために、地域のために、環境のために、ということを考えていくことが大切です。そうした意味で、社員には自分の頭で考え行動できる人材に育って欲しい、挑戦者であってほしい、という思いがあります。
今の若い世代は社会貢献というテーマにとても敏感です。ありがたいことに、異分野から当社に転職してくる人、あるいはSDGsに関わりたいという理由で当社に入社を希望する人もいて、多様な人材が集まってきています。社員の期待に応えられる会社にしなければ、と肝に銘じています。

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