2021.01.28

会員インタビューvol.05 キャラバンサライ株式会社

想像してみよう、“豆”から“カップ”までのストーリー
「一杯のコーヒーでつながる私たちと世界」

コーヒー愛あふれる、キャラバンサライの西岡憲蔵社長(右)と、執行役員の脇坂洋州さん(左)。 金沢市保古町の本店には焙煎所が併設され、焙煎の様子を見学できる

「多国籍食卓」があたりまえとなった現代。金沢に暮らす私たちの食卓も、見えない糸で世界とつながっています。もちろん、コーヒーも。
コーヒーの生産国のほとんどは開発途上国と呼ばれる国々です。 コーヒー豆の買取価格は国際市場で決められますが、業者との交渉の手だてを持たない立場の弱い生産者は、生産や生活に必要な利益を得られず、不安定な生活を余儀なくされることもあります。
海の向こうの生産者を支えるために。金沢の人においしいコーヒーを飲んでもらうために。そして自分たちがやりがいをもって生き生きと働くために。金沢に本社を置き自家焙煎のコーヒー豆を販売するキャラバンサライさんは、「一杯のコーヒーができること」を考え、広げています。

―キャラバンサライさんは創業40周年を迎えたそうですが、これまでのあゆみを教えてください。

当社は1980年に自家焙煎の喫茶店からスタートしました。今でこそ自家焙煎のお店は珍しくありませんが、40年前は生豆を手に入れるのも難しい時代でした。産地との距離があるので分かりにくいのですが、コーヒーはお米や野菜と同じ農業です。「どんなところで、どんな人が栽培し、どこで味の違いが生まれるのか知りたい」と、海外の農園に頻繁に足を運ぶようになりました。
現在は、自然環境への配慮や労働者の就労条件の向上に取り組む農園で、日本スペシャルティコーヒー協会の評価基準で80点以上、などといった条件を満たした豆を「キャラバンサライ認証コーヒー」として独自に認証する取り組みも行っています。

クオリティの高いコーヒー豆を買付け、さらに焙煎後7日以内のコーヒー豆のみ販売するのがキャラバンサライの流儀

―コーヒーにはさまざまな国際認証がありますが、それとは別に、ということですよね。キャラバンサライさんの矜持を感じます。

たとえばフェアトレード認証のコーヒーを選ぶことも、もちろん意義があることです。一方で私たちがやっているのは、プレミアム(奨励金)をつけることではなく、質のいい商品に、それに見合った価格をつけ、継続的に買い続けるということです。
生産者は技術を持っていますが、それが求められない状況では活用することはありません。高い農業技術に基づいて良い豆を栽培し、得られた利益で設備投資をし、生活の質を上げる。そんな良い循環が生まれたらいいじゃないですか。
コロンビアに「ウィラ・マリア農園」というコーヒー農園があります。ウィラは地区名で、マリア・ラミレスさんという女性が農園主です。当社では数年前からマリア農園の豆を買いつけています。初めてウィラ地区を訪れたとき、マリアさんの家は小屋同然でした。そこから45年経って再び訪問すると、マリアさんをはじめ地区の生産者の家々の改修が進んでいました。私たちの取り組みがかたちになっていることを実感できました。

「現地で撮った写真を見ると、一生懸命に栽培に取り組む生産者たちのためにもコーヒー豆を売らなきゃな、という気持ちになります」と語る西岡社長

 ―「一杯」が積み重なったときの大きな力を感じます。コーヒーを飲む人にそうしたストーリーが伝わるといいですね。

一昨年、「一杯のコーヒーでつながる私たちと世界」と題して、当社の40周年記念イベントを開催したのですが、その一環で、コロンビアに拠点に置く輸出業者「カラーズ・オブ・ネイチャー」代表のフェリペ・オスピナさんを招いて講演を行ったんです。
フェリペさんは、内戦や違法作物栽培などの影響を受けた地域の人々を支援する目的で活動を始め、自社農園を経営しつつ他の農家の自立をサポートしています。さきほどのウィラ地区の農園もプロジェクトに参加しています。おいしいコーヒーをつくる生産者と、おいしいコーヒーを求める消費者をつないだ先に、生産者の安定した生活と戦争からの出口がある、とフェリペさんは話してくれました。
講演の後は抽出のスペシャリスト、尾籠一誠さんによるドリップの実演を行いました。生産者、輸出業者からのバトンタッチを受けて、お客様においしいコーヒーを届けることが当社の役割ですから。

2019年10月1日にしいのき迎賓館で開催されたキャラバンサライ創業40周年記念イベントにて。フェリペさん、尾籠さんとともに

―生産地の実情について聞いた後のコーヒーは一味違うものになりそうです。そういった啓蒙活動を含めて「キャラバンサライSDGs宣言」を出されているのですね。

40周年を機に当社がやってきたことを振り返ってみて、「SDGsで括ることができるじゃないか」と気づいたんです。環境に配慮した経営を実践している農園から仕入れることで12:つくる責任つかう責任」の達成につながりますし、スタッフがコーヒーの背景を知り、自信を持って販売することは8:働きがいも経済成長も」につながります。
もうひとつ、コーヒーを軸に地域とのつながりを深めることにも意識しています。
たとえば、エチオピアではコーヒーに塩を入れて飲む習慣があるのですが、これに倣って奥能登産の塩を入れたコーヒーの開発に取り組んだことがあります。こちらは残念ながら断念しましたが、その過程で出会った能登海洋深層水で抽出したアイスコーヒーを商品化しました。コーヒーに合う洋菓子の開発ということで、加賀市産の紅茶を使ったブランデーケーキもあります。

「『キャラバンサライSDGs宣言』は、スタッフが新しい取り組みをする際の判断基準になっています」と話す脇坂さん。 手にするのは、地域産の素材を使って開発したオリジナル洋菓子

―コーヒーは味を追求するだけでなく、横の広がりもありますね。

最近では㈱クリエイターズが運営する障害者就労継続支援施設とクリエイティブユニットのカエルデザインと連携して、従来廃棄していたコーヒー豆の麻袋を活用した食器洗い用クロスを製作しました。通常のスポンジはマイクロプラスチックが排水に入り海洋汚染の原因になりますが、これならそういった心配はありません。

また金沢QOL支援センター㈱が運営する障害者就労継続支援施設リハスファームかなざわとの連携では、コーヒーかすを肥料化するプロジェクトも進行中で、将来的にはコーヒーかす由来の肥料で栽培した大豆を使い、洋菓子をつくる計画です。SDGsといっても一般の認知度はまだまだ。日常的な飲み物であるコーヒーがSDGsの世界を知るきっかけになればと思っています。

食器洗い用クロス。生産国のお国柄が表れた麻袋のデザインをうまく活かしてアップサイクル
pagetotop