2020.12.10

会員インタビューvol.02 農事組合法人One

農業×環境、農業×エシカル消費、農業×福祉―
パートナーシップで広がる、「地域の農業」ができること

実家の米農家を継いだ兄・宮野一さんと、独立してれんこん栽培をしていた弟・宮野義隆さん夫妻が中心となって2013年に設立した農事組合法人One。田んぼとれんこん畑は、河北潟のすぐ近く、金沢市才田町にあります。取材を受けていただいた義隆さんの名刺には、“One副代表”の肩書きに加えて、“才田町農業課 課長”の文字が。ん?そんなポジションあるんですか?
「“才田町農業課”は本社・直営店の名称で、課長は自称です」と笑う義隆さん。「農業は“地域ごと”。そういう役割を果たす人間が必要なんです」と説明してくれました。
OneSDGsの取り組みの根底には、地域と農業への熱い思いが流れています。

―見渡す限りのれんこん畑、壮観ですね。Oneさんはどんな農業をされているんですか。

Oneでは水稲、れんこん、にんにく、ジャガイモなどの生産販売を行っています。持続可能な農業を実践し、生産はもちろん、販売や事業企画、地域活性化にも取り組む「農業家」の集まりです。
持続可能な農業は土づくりから始まります。その一環として、収穫後のれんこんの残渣やもみ殻を堆肥に加工して田畑に戻しています。徹底して土づくりにこだわった結果、農薬など使わなくてもいい状態に。環境保全の面からもコストの面からも、農薬は使わないに越したことはありません。

義隆さん夫妻が切り拓いた広大なれんこん畑。農薬不使用、化学肥料不使用。カモの食害を防ぐためネットを張っている。「カモも農家も必死です」と義隆さん。

2017年という早いタイミングでSDGs宣言をされていますが、SDGsに取り組むようになった経緯を教えてください。

僕はもともと大工をしていたのですが、夫婦で新規就農してれんこんを作るようになり、その後兄と一緒に法人化したんです。才田町は農業が盛んなまちですが、農家は高齢化が進んでいます。僕ら世代が生産性を上げて、安定した雇用の受け皿になっていかないと、農業は持続不能になってしまう。農業以外の、いろんな会社のビジネスを知りたいという思いがあって、金沢青年会議所(JC)に入会し、そこでSDGsに出会ったんです。
農業は地域の中でさまざまな役割を果たしていますから、SDGsのゴールでいう17:パートナーシップで目標を達成しよう」を意識しています。まず企画したのは収穫祭です。ただし、農産物を販売するだけでは継続性がありません。そこでSDGsの「6:安全な水とトイレを世界中に」に関連付けて、NPO法人河北潟湖沼研究所と連携し、河北潟の水環境と農業にスポットを当てたイベントにしました。毎日何気なく田んぼの風景を見ている子どもたちも、水田には生きものを育んだり、水質を浄化したりと多面的な機能があることを知り、意識が変わったと思います。

義隆さんは3男1女 の父。才田町では若い世代の交流があり、地域ぐるみで子育てする環境があるそう。コミュニティを支える柱が農業だ。

―大人にとっては「地域でとれた農産物を買うと、持続可能な農業に参加できるんだ」と気づく機会になりますよね。

そうですね。ただ一方で僕は農家が「地産地消」を唱えることには抵抗があります。めざすべきは「地消地産」ではないかと。地産地消の起点は生産です。これに対して地消地産は、地域で消費するものを地域で作ろうという考え方で、起点は地域のニーズです。そうした点で、Oneではスーパーや飲食店などと直接取引をしていて、オーダーを受けて農作物を栽培しています。
もちろんウチだけがそうでもダメなので、JC2019年のプロジェクトとして、地域でエシカルな消費と生産をめざそうと、小売店が間に立って消費者が欲しい農産物を農家に発注する仕組みをつくりました。小売店にとってみれば、地域の農家からの仕入れが増えることで輸送コストが減り、天災などで物流が停滞する心配もありません。食品ロスもなくなります。農家は安定して、そして責任を持って生産に取り組めますから、SDGs12:つくる責任 使う責任」に合致します。

宮野家の屋号を冠した「宮野久市」ブランドのお米。慣行栽培に比べて農薬8割減、化学肥料5割減。

―消費者、小売店、農家と、3者の課題が解決できるわけですね。農業は“地域ごと”だということが実感できます。

はい、僕たちもただ「才田町農業課」を名乗っているわけじゃないんです(笑)。
最近は障害者就労⽀援施設と連携して、障害者の方に農作物の選別などを担当してもらっています。自分たちが従来やってきたやり方では作業が捗らない場合も、やり方を変えると、能力を発揮して活躍してもらえるようになるなど、こちらも気付くことが多い。単なる業務委託の関係ではなく、人手が足りない農業と就業機会を求める福祉が、お互いの課題を理解して、解決しようというスタンスです。

―担い手不足という点では、どうやって若い人に職業として農業を選んでもらうかも課題ですよね。

SDGs8:働きがいも 経済成長も」は、農業も同じ。農業にも働き方改革が必要です。Oneではトヨタ⾃動⾞が開発した農業管理システムを導⼊し、作業時間や農機具の稼働状況を「⾒える化」しました。そのデータをもとにちゃんと休める作業計画を立てることで、2019年には完全週休2⽇制を実現しました。周囲の農家さんは不思議がっていますよ。「あんたのところはなぜ土日に仕事をしないのか」って(笑)。

Oneの取り組みは、環境省が作成する「持続可能な開発目標(SDGs)の活用ガイド」の第1版、第2版に、ケーススタディとして掲載されている。

―農業を中心に、地域でわくわくするような広がりがありますね。今後はいかがですか。

2021年の春には本社事務所に隣接するスペースにコミュニティカフェをオープンする予定です。農産物のほか、米粉を使ったパンも販売します。僕はもと大工ですから、内装は自分でやりますよ。
将来的には、自分たちが実践してきたことや生産ノウハウをパッケージ化し、国内はもちろん世界にオープンにし、SDGs2:飢餓をゼロに」に貢献できればと思っています。

2021年春にはこの場所がカフェになる予定。同じ建物に町会で利用する会議室なども入っているので、町の人にとってもなじみのある場所だそう。
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