食べることがSDGsの達成につながる海を守り、漁業を支え、食の可能性を広げる「石川の朝とれもん」プロジェクト
8時30分。金沢市中央卸売市場では「朝セリ」が始まり、セリ人と仲買人が独特の言葉や手指の動きで魚の値段を決めていきます。「石川の朝とれもん」プロジェクトは、早朝に県内の港に水揚げされた魚を、この朝セリを通じてその日のうちに地元の皆さんに食べてもらおうという取り組みです。2012年から始まったプロジェクトですが、ひもとけばSDGsの考え方にぴったりと当てはまることから、SDGsの視点で意義を捉え直し、広く発信しています。プロジェクト事務局を務める石川中央魚市営業戦略室の田丸達之さん、関塚美沙さんのおふたりにお話を聞きました。
―セリというと暗いうちに行われるものだと思っていましたが、朝セリは8時30分から始まるんですね。
そうですね。深夜3時30分に始まる通常のセリと朝セリとは位置づけが異なるんです。朝セリは2008年からスタートしました。それ以前は、早朝に県内の港に水揚げされる魚は、しばらく保存して翌日のセリにかけられ、大半が県外に流通していきました。でもせっかくの地元の新鮮な魚ですから、新鮮なまま地元で流通させたいですよね。そこで朝セリが始まったんです。その後朝セリの取扱高が順調に伸びたことから、「石川の朝とれもん」プロジェクトを立ち上げたという経緯があります。朝セリは年間を通じてほぼ毎日実施しています。もちろん、水産物流通を担う当社単独でできることではなく、生産者であるJFいしかわさんとの共同事業です。自然にSDGsの「17:パートナーシップで目標を達成しよう」を実践していたんですね。
―朝セリを通った魚が「石川の朝とれもん」ということなんですね。なぜ「石川の朝とれもん」を食べることが「“もったいない”がないまち」につながるのですか?
魚を冷凍して長距離輸送するということは、その分、輸送や保管にエネルギーを使うということです。「石川の朝とれもん」を選べば、それらが抑えられます。朝セリには活魚が大きなタンクに入った状態でドンと届くこともあるんですよ。それから朝セリは規格外や少量の魚も受け入れ、必ず流通にのせるので、魚のいのちをムダにすることもありません。”もったいない”がなくなるということは、地元の漁師さんの出荷の機会が増え、収入が増えるということでもありますから、「8:働きがいも経済成長も」「12:つくる責任つかう責任」「13:気候変動に具体的な対策を」「14:海の豊かさを守ろう」と、SDGsの複数のゴールにつながっていきます。
―地元の人は旬の新鮮な地魚を食べられるわけですから、いいことばかりですね。
美味しい魚は石川の貴重な地域資源ですから、持続可能な漁業であることが重要になります。実は「石川の朝とれもん」の多くは定置網漁で獲れたものなんです。定置網漁は海中に網を設置して回遊する魚群を待つ漁法なので、過剰漁獲になりにくいのです。石川中央魚市としては、環境に配慮した漁業の証である 「マリン・エコラベル・ジャパン(MEL)」の流通加工段階の認証を得ています。SDGsの「14:海の豊かさを守ろう」は、海と漁業に関わる事業を展開する私たちにとって、特に重要な使命だと考えています。
―身近な「食」にかかわるプロジェクトですからいろんな波及効果がありそうですね。
「石川の朝とれもん」は地域経済を元気にする取り組みで、SDGsの「9:産業と技術革新の基盤をつくろう」に合致します。本来の目的は地産地消ですが、観光客で賑わう近江町市場の鮮魚店や飲食店に鮮魚を届けることで、地元の食文化や観光産業を縁の下で支えています。また、深夜のセリでは難しかった見学の受け入れが可能になりました。外国人観光客から地域の小学生まで、いろんな方に活気あふれる朝セリを見ていただいています。
―課題や今後の展望を教えてください。
やはり「石川の朝とれもん」を多くの人に知っていただくことが一番です。そして食べることでSDGsに参加してほしいと思います。「石川の朝とれもん」を扱っているスーパー・鮮魚店・飲食店などは、公式ホームページで紹介しています。入荷量は天候に左右されるので安定供給が難しい面がありますが、逆にそれが自然の恵みである証で、魅力のひとつだと理解してもらえれば嬉しいです。課題としては、SDGsの取り組みについて社外からの認知度は高いものの、社内の理解度や浸透度が追い付いていないということがあります。社員が自分事としてSDGsを語ることで、 より理解を深めて社会に貢献できる企業になれればと思っています。あとは、IMAGINE KANAZAWA2030パートナーズに参加したことで、異業種の事業者さんとのパートナーシップで、何か新しい、面白い取り組みができたらと期待しています。
「石川の朝とれもん」公式ホームページ