2021.01.10

会員インタビューvol.03 NPO法人World Theater Project(ワールドシアタープロジェクト)

カンボジアの男の子にも、金沢の女の子にも。
すべての子どもたちに映画体験を届ける。

2015年9月 コンポンクダイ小中学校 Photo by Maho Kurosawa

一本の映画が人生を変える、というと大げさでしょうか、でも、誰にでも憧れのヒーローがいて、忘れられないセリフがあって、見るたびに気持ちが高揚するシーンがあるものです。映画は、観る人に夢を見る力や、生きる力を与えてくれます。そこから、いつか世界を変える大きな力が生まれるかもしれません。
NPO法人 World Theater Project(代表:教来石小織さん)は、途上国の子どもたちに映画を届ける活動を行っています。2017年に金沢市を中心に活動するWorld Theater Project 北陸支部を立ち上げ、代表を務めているのが金原竜生さんです。
金原さん、教えてください。映画と一緒に子どもたちに届けたいことって何ですか。

―まずは World Theater Project(以下、WTP)の活動について教えてください。

主に、途上国の子どもたちに映画を届ける活動を行っています。20129月に日本から機材を担いでカンボジアに出かけていくかたちでスタートし、これまでに15か国約8万人の子どもたちに映画を届けてきました。現在は、カンボジア、ネパール、バングラデシュに「映画配達人」と呼ばれる現地スタッフがいて、発電機と上映機材をトゥクトゥクに積んで映画上映する村へ行き、小学校の校庭などで上映会を開いています。上映終了後は、感想をみんなでシェアしたり、印象に残ったシーンの絵を描いたりといったワークショップを行っています。

2015年12月バッタンバン州 Photo by Yoshifumi Kawabata

―かつての日本の紙芝居屋さんのような雰囲気ですね。どんな作品を上映しているのですか。

宮崎駿脚本・高畑勲監督の『パンダコパンダ』、サッカー選手・長友佑都さんをモデルにした『劇場版 ゆうとくんがいく』、やなせたかしさんの絵本が原作の『ハルのふえ』など、日本のアニメ作品が中心です。すべて権利元と交渉し、上映許諾を得た上で、カンボジアであれば現地のクメール語吹替え版を作成しています。字幕ではなく吹き替えにすることで、まだ字を読めない子どもでも楽しむことができます。
移動映画館事業を行う上では、映画の権利問題が課題となることから、権利フリーのオリジナルクレイアニメ『映画の妖精 フィルとムー』も製作しました。俳優の斎藤工さんからご提案いただいたのがきっかけです。ご本人も企画・ストーリー原案・脚本を手がけるだけでなく、登場人物のフィルの声も演じています。もっとも、フィルとムーが話す言葉はどこの国の言葉でもありませんが。

「ボランティアを持続的に行うには、自分ごととして明確な目的意識が必要」と話す金原さんはWTPの他にも複数のプロボノ活動を行う。 「本業」としては金沢市内の企業にて国内外の営業に従事

SDGsとのかかわりについてはいかがでしょうか。

WTPは「生まれ育った環境に関係なく子どもたちが夢を持ち人生を切り拓ける世界をつくること」を理念としています。これはSDGs4:質の高い教育をみんなに」「10:人や国の不平等をなくそう」に直接かかわる部分です。
活動を行う上で17:パートナーシップで目標を達成しよう」という視点も重要です。現地で活躍する映画配達人とのパートナーシップは欠かせませんし、国際協力に取り組む他の団体に『フィルとムー』を貸し出して、世界各地で上映してもらうこともあります。

映画の世界に引き込まれ、目を輝かせる子どもたち。映画にはさまざまな感情を呼び起こす力がある 2015年9月コンポンクダイ小中学校 Photo by Maho Kurosawa

―金原さん自身はどんな経緯でWTPに参加することになったのですか。

金沢大学の一年次にカンボジアを訪れる機会があったのですが、シェムリアップのキリングフィールドでひとりの少年に出会ったことが原体験になり、「カンボジアに対して何かしたい」という強い思いが芽生えました。
WTPの存在を知ったのは、京都の企業で働いていた頃です。「カンボジアで映画上映をするので、プロジェクターを貸してほしい」というSNSの投稿が流れてきたんです。発信者は大学時代からの知り合い。そのちょうど3日前に、初ボーナスでホームシアター用のプロジェクターを購入していた私は、偶然に驚きながら未使用のプロジェクターを貸しました。
WTPのメンバーになったのはそこから数年後です。代表の教来石の著書『ゆめのはいたつにん』を読み、雷に打たれたようにカンボジアへの気持ちを思い出しました。ちょうど関西支部を立ち上げるタイミングだったので、そこに私も加わりました。その後、金沢の企業に転職したことをきっかけに、20174月に北陸支部を立ち上げたんです。

ひとつの空間を共有して同じ映画を観るという体験そのものが大切なこと 2015年12月バッタンバン州 Photo by Yoshifumi Kawabata

―食料や薬ではなく映画を届けるということの意義について、どのように考えていらっしゃいますか?

たとえば食料支援であれば、国連世界食糧計画などさまざまな組織がすでに行っています。そこに寄付・協力するという方法もありますが、私としては、自分の原体験をモチベーションに、直観的にいいと思える活動をしたいと思っています。
映画は世界に通じる窓です。その向こうに、広い世界があることを気づかせてくれます。途上国の農村に暮らす子どもたちに将来の夢を聞くと、単純に「働きたい」か、そうでなければ、自分たちの身近な職業である先生・医師・警察官という答えがほとんどです。知らない夢は、思い描くことはできません。

個人であれば、「ギフトシネマ会員」になる、寄付する、グッズを購入する、などのかたちでWTPの活動をサポートできる  ©️ World Theater Project

―食料は生きるための手段を、映画は生きる目的を与えてくれるもので、別の役割があるんですね。北陸支部としての活動についてはいかがですか。

金沢市中心部の町家で映画上映会を開催する、などの活動を行っています。映画が新しい世界を見せてくれるのは、日本の子どもたちに対しても同じです。
実は、石川県は人口に対する映画館のスクリーン数が全国トップクラスなんです。かつては香林坊に映画館街もありました。映画文化が根付いている土地柄だからこそ、WTPの活動を広げるという面でも、映画で地域を盛り上げる、映画で人々の交流を促すといった面でも、より大きなムーブメントを起こしていけると思っています。
また、地域でSDGsを広めようというとき、大上段から「国連が定めた… 」などと紹介しても、小難しい話になってしまいます。映画であれば、日常と関連づけてSDGsを自分ごと化できる作品もあります。映画の力を活用して、多くの人にSDGsを知ってもらうことにも取り組んでいきたいです。また、子育て支援を行う金沢のNPOなどと連携して子育て支援センターや託児所などで『フィルとムー』の上映会を行う、といった活動などにも挑戦していきたいと考えています。2021124日には、WTPのこれまでとこれからの活動について皆さんとお話しするオンラインイベントを開催するので、興味を持った方はぜひご参加ください。

金原さんが一番好きな映画は『インディ・ジョーンズ』だそう。中学高校時代は世界史の教科書を読み込み、考古学者に憧れた。映画は、夢のきっかけを与えてくれる
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